私とバイク 13
駅前交番の警官が程なくやってきた。こう言っては悪いが、交番勤務から始めて経歴の深くない若者といった感じの巡査2人である。
ひとりが戸口にやってきて、「どこに置いてありましたか?」と聞くので駐輪場のバイクが置いてあった場所を見せた。現場保存のために特に何も動かさずに置いてあった。
「とりあえず書類を作りたいのでまたお宅のほうによろしいですか?」
と言われ、再び玄関に行った。もうひとりは駐輪場のあちこちにメジャーを当てて計り始めた。
「排気量はいくつですか」
から始まり、車種名、年式、登録番号、車台番号などを聞かれた。私は車検証をバイクに載せていたので、任意保険の証書を見せて書き写してもらった。バイクが盗まれた場合に盗難届に書く内容はもはや定番のようである。しかし次に衝撃の質問を受ける。
「そのバイク、市場価格でいくらくらいでしょうか?」
衝撃も何も盗まれたものの価値を確認するのは当たり前だが、バイク○のCMではあるまいし、売る気もないバイクの値段など見積もったためしがない。いくらだ?どのくらいの価値があると見られているのか?
「メーカーの買い取り価格表を以前見た時は、8年経っているバイクは15%か10%か、とにかく新車価格の1割くらいしかなかったように思いますが……」
「それじゃ10万か15万か、そんなもんですか?」
そんなにあっさり言うなよ。
「ただすでに製造が終わっている車種なんで希少価値もあると思うんですけどねえ。」
「市場価格ですよ。あくまで市場でどのくらいの価格になっているか、ということです。」
そこで調べに行くのもなんなので、とりあえずの決断を下すしかなかった。
「じゃ、とりあえず20万ということにしておいてください。」
若い警官は書き込みながら「そんなのどうでもいい」という雰囲気である。これが4ケタ万は下らないベンツだったら鼻息が荒くなるのだろうか。泥棒の悪さは金額の多少で変わるものでもないと思うのだが。
「色は……何色ですか?」
車検証にも色は書いていない。私は一瞬悩んだが、さっきバイクの画像をプリントアウトしたのでそれを持ってきた。このバイクを買った次の年は午年で、年賀状にNC35を使ったのでデジカメ画像が残っていたのである。
「カタログなどには『トリコロール』と書いてあるんですが……」
といいながら見せると「うーん」と唸りながら見て
「赤の部分が多いですかね。赤でいいですかね。」と言いながら「赤」と書き込んでいる。書類の「色」欄には一文字分くらいしかスペースがなかった。でも赤じゃないだろ……。
終始その具合で聴取は終わった。
「では見つかったら御連絡いたしますので。失礼します。」
自然に出てくるのを待つだけで、探す気など毛頭ないらしい。
こんなところで体感してしまった。頼りになる、期待できる警察でなく、困った時には結局がっかりさせられる警察の実際。
呆然としながらも職場に電話をかける。とにかく調査と他の手続きのために午前中は休みを取ることにした。
ネットで中古車販売のページを開いてみた。NC35の中古は多くないが、すぐに20件ほどがヒットした。それを見て改めて驚いた。
ピンキリながら、状態の良いものは70万円近い値段が付いている。私のバイクは純正部品からいじったものがほとんどなく、走行距離も10000km程度である。一度も転んだことがない。そんなに価値のあるバイクが盗まれてしまったことは、精神的に大きなショックであった。そこまでの価値を感じながら乗っていたわけではなかった。もし盗まれたバイクが戻らなかったら、また同じバイクを買うのに前回と同じ金額を使わなくてはならないのかもしれない。8年経ったのに、である。
もうバイクに乗れないのかもしれない、と思うと、これまでのバイクの記憶が次々と蘇ってきた。しかし、感傷に浸っている余裕はなかった。
(つづく)
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