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2018年7月13日 (金)

安物買いも趣味のうち

 出張のため仕事場を出てバス停にやってきた。にわか雨に注意と天気予報で言っていたとおり、近くの空に降りそうな雨雲が見えている。出がけに見た降雨レーダーの画面では近所に降っているところはなかった。
 バス停に複数の人がいるのでバスはそろそろ遅れて到着するはず。数百mまっすぐな道なのでバスが隣の停留所に着く辺りから見える。そちらに目を向けていると、走る車に水しぶきのようなものが見えた気がした。
「まさか?」
と口の中でつぶやきなおもよく見ようと目を凝らすが、10mほど先の歩道で帽子からジャージに靴まで赤でまとめた初老の男性がスマホで楽しそうに話していて、ときどき笑いながらくるりと回って立ち位置が少しずれる。私が見たい視線をうまく遮る。
「じゃまだよGG」
と心の中で叫びながら途切れ途切れに車を見る。こちらに走ってくるプリウスは確かにワイパーを動かしていて、けっこうな量の水を飛ばしていた。
「こっちに来る!」
空を見てもシャワーの端が見えるわけではなかったが、雨のエリアがこちらに接近して来るのはわかった。カバンに手を突っ込んで折りたたみ傘を出す。カバンに小さな水滴が2滴付いた。他のバス待ちの人も慌てだした。大粒の雨がバラバラと落ちてきて私は急いで傘を開いた。
 この傘とは家の近くのホームセンターで出逢った。もう10年近く前にユニクロで買ったオレンジ色の折りたたみ傘はお気に入りだったが、うちの小学生が骨を折っては自分のと交換して接骨、また折ったというので直してあるのを渡してまた接骨。繰り返すうちに接骨部分の増量であまりきれいに折りたためなくなり、布も劣化して水が染み込み雨もりするようになっていた。
 そんなおりに見かけたこの傘は千円で売っていた。骨の一部をポリカーボネート製にしてその先の骨は強い力がかかったら関節が勝手に折れて傘の面積を減らしかかる力を軽減、壊れにくくするというものだった。しかも径が大きい。布の撥水力が抜群の素材を使っていると書いてある。私はすぐにほしいと思った。骨は6本だったが気にならなかった。ただ、基部の骨はこれまでどおりのアルミ製だったので使用時の想像にちょっと影がかかったような気もしていた。
 この傘のデビューはアクアマリンふくしまだった。買って間もなく研究会があり、福島に持っていった。2日間の会議で、初日は晴れていい天気だったが、台風が近づいていた。
 2日目は午前から曇っていて、風がだんだん強くなってきていた。水族館の中にいる間は建物に守られていたが、風雨は相当激しくなっているのがわかった。特急に乗って快適に帰るつもりでいたため、余裕で最後まで見学してからいよいよ帰ろうとした。
 通常のバス停まではちょっと歩くと聞いていた。Googleマップにもバス停は載っていない。あまりに風がひどいのでカバンに防水カバーをかけて、記憶を頼りに道の方へ歩きだした。
 建物を離れてからは少しの間周囲になにもない。吹きっさらしの中を歩いていると殴るように突風が何回か私をどついた。傘のアルミの骨が2本曲がった。「構造的に少しは頑丈なのかもしれない」というかすかな期待は一撃で砕けた。
 そこからは予想を遥かに超えた雨量で池のようになった道をズブズブと歩きながら突風の殴打をなんとか和らげようと傘をこねくり回し、末端の骨は売り言葉のとおりすぐに跳ね上がるので傘の面積は半分以下となり、それでも突風の殴打は半端なく、曲がった骨の1本が離断して傘は傘らしさを一気に失った。近くを走る車のドライバーにやや憐れみの表情で見守られながら唐傘おばけのような格好の私はようやく見つけたコンビニに入った。
「バス停はどこですか?」
意地でもコンビニ傘を買おうとはしなかった。飲み物と菓子を買って教えられたバス停に向かった。
 バス停でも風雨と戦い、そして20分後にバスが来た。いわき駅行と書いてあったが、目指す泉駅も途中で通るのかと思った。結局、川のようになった道を1時間ほどかけていわき駅に到着したのだった。そして駅には特急が停まっていて、すぐに発車していった。私は次の特急のチケットを買おうと自販機に向かった。すると
「線路冠水のため、次の特急列車は運休します。」
とアナウンスが流れた。すでに雨は弱まってきていたが、駅員さんに聞くと「最終の特急が動くかどうかは時間になってみないとわかりませんね。」私は駅の屋根付きの通路で座って待ちながらふと思った。どうせ台風が来るとわかっていたのだから、カッパかポンチョを普通に持ってくればよかった……。2時間待って、運休しなかったけど遅れた特急に乗り深夜の帰宅となった。
 そんな思い出の傘はその後も話題に事欠かない。折れたアルミの骨をつないで使っているが、やはり強風のときには使いものにならない。先日は夜になってから雨が降り出し、風が強くないので大丈夫だと思った私は駅を出るときにカバンから傘を出し、片手でカバンを背負いながら片手で特殊警棒のように振って傘の柄を伸ばそうとした。すると傘が地上に落ちた。私の手には伸びた柄だけが残った。柄の先と傘をつなぐ接合も弱かった。手でカチッとはめ直してその夜は普通に使えた。
 そして今日。降ってくるゲリラ豪雨を見事に早期察知した私は急いで傘を広げようとした。すると持ち上げた傘と柄がそのまま分離したのである。大粒の雨が勢いよく落ちてきた。バス停の近くで雨をしのげるのは近くのマンションのエントランスのみで、そこは2-3人が入ると埋まってしまう小さなエレベーターのようなスペースである。幼児を連れたお母さんもいたので遠慮気味に半分入りながら傘に柄を再装着しようと努力するが、全身赤まみれのおじさんが入ってきたり、他のおじさんも来たりして私が中まで入るようなことはなかった。
 やむを得ず私は外で大粒の雨を傘の部分で受けながら柄を付けようとするが、慌てていじっているうちに柄の先が今度は下の柄のパイプの中に引っ込んでしまった。中に入ったものを出すことはできないので、私は再び唐傘おばけのような感じで雨をしのいでいた。
 そうこうしているうちにバスが来て、歩道が狭いため、バスに乗ろうとする前を降りた人たちが横切っていくので待っていると全身赤のおじさんがスルッと隙間に入って先にバスに乗り込んでいく。
 今日はにわか雨に遭ったのがこのときだけでネタがゴロゴロしていた中でそれほど雨に濡れずに済んだため、それほど機嫌を損ねず、また懲りずにこの折りたたみ傘を修理して分裂しないようにしようと画策している。横のPCでは「頑丈な折りたたみ傘」で検索しているのだけれど。
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