2011年9月29日 (木)

不安は「解消」できるか

 うちの下の娘は今月1歳になった。
 この子は母親依存である。母親がいなくなると泣き叫び続ける。最近はしばらくすると泣き止むこともあるが、母親から離れたり母親がいなくなったことに気付いたりするとほぼ必ず泣き叫びはじめる。
 そうやって泣き叫んでいる時に父親である私はあやさない。かまえばかまうほど彼女にとっても迷惑なのである。彼女が欲しているのは母親であって、その他の誰でもなく、物でもない。だから他の人にできることは何もない。
 私の妹も親依存である。妹が普通に歩けるようになってから、スーパーで母は6歳年上の私と妹を軽食コーナーに置いて買い物をするようになった。妹は与えられたおやつを食べている間はおとなしいが、食べ終わると急に泣き始める。「おかあさん……おかあさん……」。別に私は何もしていない。そのうち「おかあさーん」と泣き叫びながらスーパーの売り場のほうに行こうとする。私は「ここで待っていろ」と言われた責任もあるし、母が諸々荷物も置いていったので全て持って移動できない。妹の腕をつかんで座らせているがその手を振り払って行こうとする。泣き叫ぶ。「おかーさーん!ううう……おかーさーん!」まるで私がひどいことをしているかのようである。私は押さえきれなくなって手を離し、妹は相変わらず泣き叫びながら売り場のほうに歩いていく。
 荷物から離れていく事もできず心配しつつも待っているとそのうち買い物を終えた母が妹を連れて戻ってくる。「ダメねえ、迷子になったら困るじゃない。」現場を見ていない母は私をたしなめた。
 毎週スーパーに一緒に行く機会があったので、この状況は何週間か続いた。妹は毎度食べている間はおとなしいが食べ終わるとスイッチが入る。ある時、私は最終的に羽交い締めにしていたが、となりに座っていたおっさんがうるさいと思ったのか「かわいそうだから行かせてやれよ。大丈夫だから。」と私に言ってきた。「どうせおかあさんと合流できるんだろ?」それでも私が妹を押さえていると「いいから離しなさい。」と命令口調で言った。私が離したら妹は売り場のほうに泣き叫びながら歩いていった。
 ところがこの日は私の頑張りが長かったためか、妹が売り場のほうに行ってほどなく母がひとりで戻ってきた。すでにレジを済ませて袋詰めしていたところだったらしい。母に「このおっさんが離せと言った。」と言うと母はぶち切れた。「娘に何かあったらどうしてくれるんですか!無責任な事を言わないでください!」と怒鳴って妹を探しに行った。妹は迷子として店の警備室に保護されていた。
 確かに無責任な事だと思った。しかし私が押さえ続けるのにも限界がある。というか、力ずくで押さえる事はできなくもないが妹は私に暴力を振るっても離脱しようとするし、私がまるで妹をいじめているかのようにも見える。
 次の週、私は妹を押さえつつ最後には放した。母は妹と一緒に来て、「ちゃんと押さえてないとダメでしょう。」と私をたしなめた。すると近くに座っていた初老の女性が話しかけてきた。
「あなたねえ、この子はかなりがんばっていたのよ。」
いきなり神が降臨した。私に味方はいないかと思っていた。
「さんざん泣き叫んで暴れる妹を一所懸命押さえていたのよ。妹に聞き分けなんかないんだから、わんわん騒いで周りの人には迷惑になるしいじめているみたいにも見えるでしょう。だから放さざるを得ないじゃないの。あなたこどもふたり?ふたりめなのにそんな事もわからないの?この子が困っているところを見たことがあるの?買い物に一緒に連れて行きなさいよ。」
母は困った様子で苦笑いしながら「そうねえ……」と言っていた。
 そして次の週から私はひとりで荷物番をしながら待つことになった。妹がおよそしっかり歩けるので連れて行っても大丈夫になったというのもある。まあ我慢の時期が終わったということだ。
 母親依存とか親依存というのは、おそらく本人が意識して改善しようと思わなければ変わらない。頼られる親も気分がいいからなかなか離脱しようとはしない。仲のいい親子というのはいいことだと思うが、成人しても自立できない「こども」が多いのはこの状況を正しく理解していない人が多いのだろうと考える。高所恐怖症や閉所恐怖症など、トラの穴に放り込まれるような事態があって慣れれば克服できるかもしれないが、何もなくて容易に変わるものではない。母親依存もある意味先天的な「病気」で、「治療」が必要なものなのかもしれない。うちの下の娘もそんなことをいつか自覚できるようになるのだろうか。
 さっき目を覚ました娘はしばらくひとりで遊んでいたが、母親がいないことにまた気付いてわんわか泣き叫びながら家のあちこちを這い回っている。今、泣き疲れたのかどうでもよくなったのか、呆然と座っている。落ち着いたようだから、そろそろ昼飯にするか。

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