2014年7月22日 (火)

猛獣のフンはシカよけにならない

 動物園には、猛獣の糞を分けてほしいという問い合わせが時々ある。寄ってきて困る動物を近寄らせないようにできないか、ということである。
 実験も行われているようである。しかし、おそらく芳しい成果はないと思う。
 野生で食われる側の動物は、食われそうになればもちろん逃げる。でも時々、なぜここまで危険が迫っているのに逃げなかったのか、と不思議に思うほど無頓着な事もある。
 人間社会でも同様の例がある。このままでは殺されるかもしれないと気づきながらその家を離れず殺されてしまった人とか、このまま使い続けたら危ないと思いながら施設や設備を使い続けて大事故に遭遇する会社とか。
 本能には大きく分けてふたつある。 ひとつは種を存続させるためのもの。もうひとつは生態系を存続させるためのもの。種を存続させるためには個の維持が必要で、食われそうになれば全力で逃げる。一方、生態系の存続にはある程度食われて捕食者を生き延びさせなくてはならない。
 本能は基本的に逃げさせるものの、時にぼーっとさせたり、もたもたさせたりして捕食者に有利な状況を作ったりもする。それこそ「神のいたずら」か。
 捕食者の糞が転がっているだけで草食動物が逃げてしまっては、狩りをする動物の食いっぱぐれる確率が大きすぎる。そのくらいは平気にしておかないと草食動物の住処もどんどん狭まる。
 つまり、糞の存在は草食動物を寄せつけない効果に結びつかない。むしろ、ネコ科動物のスプレーのように、最近までそこにいたとか、なわばりなので近いうちにまた来るとか、そういったかなりの近さをアピールすれば忌避材としての能力につながるかもしれない。でも本能的には危険から逃げない要素もあるので完璧な排除は無理だと思う。

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2013年3月18日 (月)

迷子

 昨日は開園感謝祭だったので、たくさんの人が動物園の入口を出入りしていた。
 夕方、閉園時間くらいに券売所から連絡が入った。「入口のところに子ウサギがいるんです。」
 ノウサギじゃないかと言っている。この辺りはノウサギが生息しているのでその可能性もある。ノウサギの場合、母ウサギは24時間のうち朝と夜の2回くらいしか子ウサギのところにやってこない。あとは子ウサギから離れて生活している。母ウサギがいない間、子ウサギは基本的に草むらなどの母ウサギが用意した隠れ場所に隠れたままで動かないものだが、たまにカラスやタヌキなどの危機が迫ったり好奇心で誘い出されたりしてヒョコヒョコ歩いていることがある。ただ、ノウサギは毛も生えそろって生まれ、間もなく歩いたり走ったりできるようになるので、子ウサギといえども結構なダッシュができる。この点で赤裸で生まれるアナウサギと大きく異なる。
 捨てウサギの可能性もあるが(動物園に捨てれば何とかしてもらえると勘違いして捨てる人が今でもほんの少しだけ見られるが、想像したように動物園で飼育してもらえると思ったら大間違いである)、ノウサギの可能性が大きいので捕虫網を持って入口に向かった。トビがやけに低いところを飛んでいるので、子ウサギを見つけたかもしれないと思った。
 入口に着くと、担当の係員がレンタルのベビーカーなどを置いた下をのぞきこんでいる。「ここにいます」指さしたところを上からのぞくと渋い茶色の背中が見えた。ノウサギの色である。ミニサイズなのにすばしこくあちらこちらと逃げる方向を変えようと体を動かしている。もはや逃走中モードに入っていた。こうなると隙を見てあらぬ方向にダッシュする可能性もある。まだ退園の利用者が切れ目なく歩いている状況なのでウサギが飛び出したらうれしいのを含めて悲鳴が上がるのは間違いない。
 ということでさっそく捕まえることにした。折りたたんで横に置いたベビーカーの奥の角で、どちらにも出られるように身構えている。顔が見えないので私が近づいても怯えない。開けた方に網を置いてもう一方の逃げ口から手を入れる。経験の浅い子ウサギはギリギリまで待って手が届く前に網の方に飛び出して、網にスッポリと収まった。網の口を上にして持ち上げて網をひねる。網に収まった子ウサギは、額に白い点のついたノウサギで間違いなかった。子ウサギは捕食者をひるませるためか、2回ほど排尿した。
 ノウサギと確認して、そうするとまた放さなくてはならないので段ボール箱をもらい、子ウサギが入った網をそのまま箱に入れて棒が突き出たまますぐ裏の山の方に上がった。さっきのトビが低いところを滑空しており、カラスも2羽が近くの木にとまって子ウサギがいた方を見ている。母ウサギが今日の隠れ場所をベビーカー置き場にしていたという可能性も少し考えてみたが(平日は通りかかる人の数が少ないので)、トビやカラスの反応を見るとそうではなく子ウサギが自分でベビーカー置き場に移動したのかもしれない。
 展望台の横に柵があり、鍵を持った関係者以外は林の中に入って行けない。その柵の所まで行って辺りを見回すと人もカラスもいない。箱から網で窮屈になっている子ウサギを出して、網の口を林の方に向けた。子ウサギははじめ間違えて網の奥に2回ほど突進したが、その後反対側に気付いて網から出た。そのまま、嫌なことがあったときの後肢を蹴上げる跳ね方でしっぽの下側の白い色を見せつけながら林床の茂みの中に入って行った。母ウサギの行動範囲が広いことは知られているが、子ウサギを見つけることはできるだろうか。
 人やカラスから早く離れて見つけられないうちに放したかったので写真を撮っている余裕がなかった。のでキュートな姿は直接見た人の記憶の中のみ。

(金沢動物園のブログに昨年保護された子ウサギの画像があります)
http://www.hama-zoo.org/blog/?bsid=76&bid=4045

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2013年2月 9日 (土)

クラゲと暮らす

 先週、新江ノ島水族館(えのすい)にある「なぎさの体験学習館」でスペシャルワークショップ「ムーンジェリー~クラゲが教えてくれること~」があり、申し込んで娘と2人で朝から出かけた。冬の嵐の朝で大荒れだった。

 申し込んだのはかみさんだった。もちろん本人が行くつもりだったが、後から下の娘の保育園の報告会がかぶったのでそちらに行った。
 始まってすぐに衝撃的な展開を耳にする。
「今日はクラゲを持って帰ってもらいますから」
中華料理の材料の話ではなく、生きたミズクラゲを持って帰るという話をここで初めて聞いた。みんな知らなかったらしい。

 クラゲはポリプからストロビラという分裂期を経てたくさんのクローンをエフィラという形で放出する。このエフィラを持って帰って育てるというのである。
S_p2022225 ポリプ
S_p2022227 エフィラ
S_p2022228 小さなクラゲ
そしてエサはブラインシュリンプである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%9F%E3%82%A2
S_p2022230 かさの模様がオレンジ色になっているのはエサを消化中

 帰ってからはこの哀れな微小エビも育てなくてはならない。と言ってもいわゆるシーモンキーと同属のこのエビは養殖されて粉末のような卵も売られていて人口海水に入れて暖かくしておけば24時間で孵化する。問題はこの時季の水温で、寒いと24時間経っても出てこない場合がある。
 うちの小学生は私の小学生時代と同様、説明を「聞いておけよ」と言われてもうろ覚えで説明してみろと言われてもいい加減なことしか言えない。エサのブラインシュリンプは毎日次々と準備しておかなくては、ヘタするとエサを切らすことになる。

 突然降って湧いた話だったにも関わらず、娘は毎朝世話をしていた。しかし、他の情報がおろそかで私が代わりに紙に書き出したりしたがやはり忘れたりサボり始めたりする。
 金曜日の朝、ついにブラインシュリンプは残りわずかで、全部やっても足りなさそうであった。前日仕事を片付けていて3時間も寝ていない私を起こして「どうしたらいい?」と言う。一応いくらか暖かいところに置いておいたが、まだ孵化していないらしい。
「もっと暖かいところにおけば出てくると思うよ」
出てこなかったらすぐそこの熱帯魚屋に動いているブラインシュリンプを買いに行くこととした。

 私はレンジで暖めた人工海水を足したりホットカーペットの上でさらに日向のところに置いたりしたところ2時間ほどでわさわさと動くのが出てきた。クラゲたちには充分な量のエサを与えることができ、次も孵化させることができそうである。
S_p2082288 光に対する走性があり、明るいところに群れる。
クラゲたちはみるみる成長して大きくなっていく。
S_p2082283
S_p2082285
S_p2082286
S_p2082287 たぶんつづく。

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2013年1月29日 (火)

よこはま国際フォーラム2013

F0127
 よこはま国際フォーラムでウガンダと横浜の動物園の交流について話します。

 なぜ地方自治体の一都市が海外に技術支援なのか。なぜ動物園が海外に技術支援なのか。横浜に何らかのメリットはあるのか。費用はどこから出ているのか。
 素朴に疑問が湧いてくると思います。意義は何か。現状はどんなか。今後はどのような道があるのか。横浜や日本にメリットはあるのか、あるとしたら何か。横浜市民の意志は?他の都市は同じようなことをする可能性があるのか。
 動物園が何を考えて行動しているのか、動物園はこれからどんな存在たろうと考えているのかを動物園の内側からの視点で話しつつ、ウガンダという国(地域)の自然や社会の状況、これからのウガンダやアフリカ諸国と日本との変遷の対比、そして地球としての未来像を考える事とのつながりなどに展開したいと思っています。
 会場にお集まりのみなさんに意見を言っていただき議論できれば理想的です。「横浜市民が払った税金をどこにやるんだ?」いや、全ては人の為ならず、と実践できることが目標です。

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2012年11月11日 (日)

ウサギ観察

 金沢動物園は、横浜市でも減少の一途にある緑が残されている森の中にある。この環境の中にはノウサギも普通に生息している。
 高速側駐車場に行くといつでもウサギの糞を見ることができるというのも市内ではある意味特異的である。この日も糞が落ちていたので写真におさめた。
S_sbsc1439_2
S_sbsc1441_2
 この後、仕事の都合があって暗くなるまでこの駐車場にいた。薄暗くなってきた頃、駐車場の端のほうを歩いて移動したところ、足元近くで急に何かがガサっと動いて少し離れて止まった。リスか?でもリスは大胆だしすぐ木に登る。その辺では立ち止まらない。
 少し離れて音のした辺りをよく見てみると、ウサギだった。
S_sbsc1442_2
 しかしノウサギは警戒心が強いので、こんな近くでおとなしくしていることはまずありえない。体格も少し小さいようだし、まだコドモかな?先日リリースしたやつかな?などと考えつつも観察を継続。のんきにこの近距離で草を食べている。
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 よく見てみると、白い模様が首の後ろにあるようにも見える。この辺りのノウサギは白くならないし、白化するのにそんな模様はできないはず。ということは、こいつは野良ウサギ=アナウサギ?という疑念が生じてきた。しかし真っ暗になってきたし、確かなことはわかりにくい。
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 周囲を多少気にしつつ草を食べ続けていたが、駐車場の向こう側にネコが現れた途端、シュっとその場を去って見えなくなった。ネコまでは数百mありウサギには気づいていないようだったが、ウサギの対応は劇的に速かった。その日はもうウサギを目にしなかった。
 野良ネコも野良ウサギも自然の生き物ではないが冬季も生き抜ける可能性がある。生態系はそれも含めて変形を続けている。

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2011年11月17日 (木)

ズーラシアの歩き方 10

 亜寒帯の森には人気の展示物がある。フンボルトペンギンやホッキョクグマも人気だが、海鳥の展示ケージの横にある「鮭のくん製」は大人気である。
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亜寒帯の川にはサケが遡上する。秋にはサケがたくさん捕れるのでなんとか保存食にしようとするわけで、薫製などはその地域の食文化として広く存在するわけである。
 ホンモノそっくりに作られたこのサケはもちろんホンモノではなく、樹脂で作られた模型である。奪い取っていこうとする人が後を絶たないため、何度か修理されている。さすがに鳥は騙されないので持っていこうとしないが、後ろに展示されているオオワシやウミネコなどはサケ漁や薫製作りの現場に現れておこぼれをもらう生活をしてきた。野生動物とはいえ人間の生活と関係しているのである。

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2011年11月 3日 (木)

ズーラシアの歩き方 9

 冬のズーラシアについて。
 まず、2011年の春にジャングルインフォメーションの「ジャングルカフェ」は「フレッシュネスバーガー」になった。ズーラシアオリジナルのメニューもあり、夏はソフトクリームも販売している。
 ライオンのビューイングシェルターは椅子がないので中で落ち着きにくいが、空いていたら窓枠の狭い平らなところに座ることもできる。ライオンたちは向こう側の日当たりの良い場所が好きなのであまり近くにはいないが、たまに窓の近くにいることもある。そこで背中を向けて座っているとじゃれついてくることもある。全くタイミング頼りなので運が良くなければそんなことはないのだけれど。
 私のようなライオンの知り合いがいると窓のほうに遊びに来ることもある。彼女たちはじゃれて遊ぶのが好きなので、向こう側から低い態勢で駆け寄ってきて窓をひっかくような動きをする。窓がツルツルだと知っているので爪は出さないが、足の裏に土が付いているので窓は傷だらけになっている。youtubeに動画がアップされているが、いつも見られるわけではない。
 ライオンがあまりにビューイングシェルターに近寄らないので、ズーラシアはついにライオンの近くに窓を作った。掲示してあるが、寄付した人がいてそのお金で作られている。この窓は壊されないように電柵が張ってあるのでライオンがじゃれついてくることはほとんどない。ただ非常に近くでライオンを見ることができる。
 亜寒帯の森に進むトンネルは夏でも少し涼しい。吹き抜けだが少し距離があるので、向きによっては風を少ししのげる。トンネルを抜けると亜寒帯の動物たちなので、冬は調子のいい動物が多い。
 ゴールデンターキンは冬毛が長く、特に雄は金色のコートの如くである。カモシカに近い動物だが、どんな角をしているか、マーキングなどどんな行動をしているか、よく観察しているといろいろな発見がある。しっぽの長さなど改めて見ると知ることも多い。
 しばらく動物を見ているには屋外でじっとしている必要がある。寒い時は案外足元の寒さが気になる。頭寒足熱で足を暖かく準備していくことがズーラシアでは肝心となる。
(つづく)

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2011年1月 8日 (土)

ズーラシアの歩き方 8

 話は変わって、冬のズーラシアの歩き方。
 ズーラシアは屋内とか屋根とかの少ないので有名な動物園である。だいたい動物園に着くと入り口からさほど歩かなくても建物の中に入れるところがあるだろうと期待しがちであるが、ズーラシアは入り口に入ってからオージーヒルのレストランまで本当の意味での屋内には入れない。
 ズーラシアに来て早めに一度屋内で落ち着きたいと思ったら、入り口からすぐに入らず、出口寄りにあるアクアテラスのギフトショップか休憩所(ハーゲンダッツのカウンターがあるけどテーブルとイスは無料休憩所)に入って用を済ますなりひと休みするなりしたほうがよい。
 ズーラシアの入り口から入って最初の屋根はゾウとカンムリシロムク+パラワンコクジャク+オオミカドバトの間にある高いビューポイント。ガネーシャのいるところ。その次がオランウータンのビューイングシェルター。上を見るとガルーダのいるところ。そしてトイレがマレーバクの横にあって、マレーバクとスマトラトラの間がジャングルカフェである。トイレ以外は吹き抜けなので暖をとるようなところではない。ジャングルカフェでは暖かい飲み物や軽食を買える。2011年1月現在ではイチ押しが「カツカレー棒」。棒状の揚げ物の中身がご飯とカレーで、カツカレーのような肉のボリュームは期待してはいけないが、本当にカレーライスが揚げ物の中に入っているので感心してしまう。ボリュームもボチボチ。注意点がひとつあって、閑散期の平日や雨の日は開店しないことがあるので、いつも店が利用できると期待するとがっかりするかもしれない。土休日は開店していると思う。
 次の屋根はインドライオンのビューイングシェルターで、その次は亜寒帯に向かうトンネルである。(冬の話つづく)

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2010年10月13日 (水)

正直、辟易

 最近の動物園の傾向には、私はあまり共感できない。
 日本の動物園というところは、かつては動物を入れた「だけ」の檻が並んで非常に動物臭いところだった。檻に入れた「だけ」の状態がいいとも思わないし、動物がいれば臭いというのもそれが本来とは思わないが、しかし動物の本来のなにかが少しでも感じられる点は評価している。
 動物はそんなに臭いものでもない。というか、自然の中では臭いは消されてしまう存在である。微生物が臭いの元も臭いを作るものも減らしたり変えたりしてしまう。消えるものだから、より強いよりしつこい臭いを発するようになったわけである。
 植物とか微生物とかに臭いが消されたり低減されたりするので、土や緑の多い場所で飼われる動物からはそんなに強い臭いが感じられない。土や緑も、流したり分解したりしにくい状態にあれば「ヌタ場」同然で臭いは減るどころが増幅されるので、あればいいというものでもない。また、水は見た目きれいな状態ほど汚れやすい。動物園に風呂かプールのような水場を求める勘違いさんもときどき見かけるが、水には藻やら水草やら、虫やらカエルやらがいたほうが諸々分解される状態にある。水から上がってきた動物が背中に藻を乗せていたとしたらそれは汚いのではなく、本来あるべき状態に近いと言える。どこかでゴロゴロして藻が取れるようになっていればいいのである。そのゴロゴロも動物の体調維持には必要な動きのひとつであり、その機会を作るのが背中に乗った藻である。
 しかし最近の人気はガラス越しに動物を見ながら飯を食うことだという。まあそういうのがあってもいいかとは思うが、本当に動物や自然を「感じる」のとは明らかに違う。そもそも臭いがシャットアウトされている時点でもはや「五感」で感じていない、リアルでもライブでもないのである。テレビとそんなに変わらない。旭山を誰かが「行動展示」と名付け、大いにもてはやしたがそれはリアルから一歩置いた、文明に好かれるような展示様式が多かったのが人気につながっている。パイプを通るアザラシを近く見られるのも、自分は水に入らずに、水の温度も臭いも感じないで近くに見ている。クマが飛びかかってくるのもガラス越し、展示場に首を出してみるのもガラス越し。空中を渡るオランウータンも遠くにいてしかも遮るものなし、多くの演出の元にそこにいるのである。私は動物園で働く以前に動物園評論家であるが、旭山にはこれっぽっちも感動がなかった。それはまさに文明の需要に応えてしまった展示方法の羅列だったからである。
 考えたのも思いついたのもたいしたものだと思う。しかしそれを分析して多くの動物園がまねている。結果として、動物園が伝えようとするものは自然そのものでなくそうして演出された、「作られた自然像」がどんどん増えていく。
 そして動物園は人気集めに執着している。人気がないと切られる、テレビのバラエティ番組と同じ扱いである。ということは中身もバラエティ番組程度の伝えたいものに収まる。私はこの扱いの中で、とりあえず存続させるために人気集めの仕事をしているわけだが、あまりこれが長引くようだとつきあいきれない。
 動物園というところはワンマンでは難しい。中にはゾウの国のように経営者の主義一筋でがんばってやっているところもあるが、経営は厳しい。経営はしないわけにはいかないが、妥協点を探りながらやるのか、維持だけを目標に据えるのかで「思い」の部分は比重がずいぶんと変えられるものである。カリスマが現れて指導してくれればいいのだが、たとえばズーラシアには開園以来カリスマはいなかった。人気者はいたが。
 私はひとりの獣医師に過ぎず、動物園のトップとして長く君臨するキャリアというわけでもない。このまま動物園という主義もなく動物園が人気集めだけに知恵を絞る団体と化していくのなら、動物園との訣別もそろそろ検討しなくてはならない。よほど有意義な仕事が世の中には存在するからである。
 次の仕事は何にしようかと少し考えを巡らせているところである。

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2010年9月27日 (月)

ズーラシアの歩き方 7

 オランウータンのビューイングシェルターの上にいるのはガルーダ(ガルダ)である。インドあたりの言葉ではどうやらガルダと言うようで、しかしアジアの言葉は母音をしっかり言うのでルの音にもuの字が付き、インドネシアやラテン語圏とか英語圏での読み方をすると「ガルーダ」になるのでガルーダと言われているようである。
 インド神話に出てくる神々もこどもじみた喧嘩をする話が少なくないが、ガルダ誕生のあたりでも親が姉妹で喧嘩の末に賭け事をしており、いかさまで負けてた奴隷となった母親の巻き添えでガルダも奴隷にされたため、それから逃れるために必要なものを取りに出かける。卵から生まれたときから鳥なので飛ぶという能力を最初から持っている。卵を産む母親はヴィナターというそうだが、この姉妹のカドゥルーというのが悪知恵の働くやつらしく、やはり卵を産んでヘビが生まれる。このナーガという大蛇?はヴィナターとガルダをずいぶん苦しめるのだが、その後いろいろあってガルダはヘビ(ナーガたち)を食料にしてしまう。アフリカのヘビクイワシの話が伝わって生まれた話なのかもしれない。
 ガルダが飛んでいるときに出会って仲良くなるのがヴィシュヌという神様で、ガルダを不死の体にしてくれるというのだが、かわりにヴィシュヌの乗り物になった。それからはガルダにヴィシュヌと、その妻のラクシュミが乗るようになったという。
 ラクシュミは金沢動物園のゾウのメスの本名である。日本に来てから横浜横須賀道路の横の動物園ゆえかヨーコという日本名をもらったが、インドで名付けられたのはラクシュミだった。インドはゾウに神様の名前をつけるのが好きなようである。あの、ちょっとずんぐりむっくりのゾウが細身のワシに乗っている姿を想像するとおかしいが、神話のラクシュミは別にゾウというわけではないらしい。

 ちなみにヴィシュヌは仏教で毘沙門天になっており、ラクシュミは吉祥天らしい。

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